【vol.95】相続Q&A~『孫の誕生祝い』は遺産分割の時に『特別受益』として『持ち戻し』をしなければならないのでしょうか?~
質問
父が亡くなり、兄弟3人で遺産分割のために話し合いをしています。
7年ほど前、長男である私のところに初孫の男の子が生まれた時、父は「でかした!○○家の跡取りが生まれた!」と、たいそう喜んで、私に300万円の祝い金をくれました。
後に、弟達にも子供がそれぞれ生まれましたが、父からの祝い金は1人100万円ずつだったとのことです。
弟達はこのことを根に持っていて、「あの300万円は兄さんへの特別受益に当たるから、遺産分割に当たって『持ち戻し』をすべきだ」と言っています。
非常識な言い分であるように思うのですが、本当にそのようにしなければならないのでしょうか。
回答
民法第903条第1項では、「相続人から被相続人から生計の資本として贈与を受けたものがあるときは、遺産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなす」旨が定められており、これによって持ち戻しをしなければならない贈与のことを「特別受益」と呼んでいます。
一方で、この同じ条文の第3項では、「被相続人が特別受益の持ち戻しを免除することもできる」旨が定められており、この「持ち戻しの免除」があったかどうかが実務ではしばしば争点になります。
被相続人が遺言書などで明確にそのように書いておけば問題はないのですが、「黙示的に持ち戻しの免除をしたかどうか」の認定は難しく、裁判でもケースバイケースで判断の分かれるところです。
孫の誕生祝いに関する判例(東京家庭裁判所平成30年9月7日審判・抗告審もこれを維持)として、孫の誕生祝いとして贈与した200万円を特別受益に当たると認めつつ、そのうち100万円については「孫の誕生を祝う心情と被相続人の資産等を考慮すると、親としての通常の扶養義務の範囲に入るものと認められるから、特別受益の持ち戻し免除の意思を推認できる」として、「黙示的な持ち戻しの免除」を認めたものがあります。
今回の質問のケースは300万円の祝い金ということですが、単に金額が多い少ないというだけでなく、その贈与の動機、人間関係、被相続人の資産状態、健康状態、他の相続人が受けた贈与との比較などの事情によっては、その贈与の一部または全部に「持ち戻しの免除」が認められ、遺産に含めなくてもよいとされる可能性があります。
教訓
孫のための贈与といえば、教育資金贈与など税務面での特例が頭に浮かびますが、こうした民法上の落とし穴にも目配りしておきましょう。
喜ばしいはずの孫の誕生が争いのタネとならないよう、祝い金はどの孫にも同額にするとか、持ち戻し免除の意思を明らかにしておくなどの工夫が必要ですね。