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【vol.5】相続Q&A~死亡生命保険金は遺留分の対象とならない?!

Xには,前妻Yとの間の子A(嫡出子),後妻Z,Zとの間の子Bがいます。
Xは,後妻Zとその間の子Bに財産を遺したいと考えています。「全財産をZ及びBに相続させる。」という遺言を遺しても,Aの遺留分が8分の1あります。

以前に,死亡生命保険金は,遺留分の対象とならないと聞いたことがあります。
Xの全財産で死亡生命保険に加入し,生命保険金の受取人をZ及びBにすることで,Xの遺産をAは取得することができなくなると思いますが,いかがでしょうか。

回答

死亡生命保険金は,遺留分の対象とはならないため,遺留分回避のために生命保険を利用した本事例のような解決策は有効です。  ただし,平成16年10月29日の最高裁判所判例は頭の片隅にいれておきましょう。すなわち,AとZ及びBとの間に生じる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる。
したがって,この特段の事情が存する場合には,当該死亡生命保険金請求権は特別受益としてXの相続財産に持ち戻されて,Aはそこから遺留分を請求できる,ということです。

解説

本事例を簡単に説明するならば,死亡生命保険金が相続財産と認められれば,遺留分の請求ができるAと,死亡生命保険金は保険金受取人の固有財産であり,相続財産ではない,つまり,遺留分の対象ではないと主張するZ及びBの争いです。
遺産の欲しいAは,あの手この手と死亡生命保険金をXの相続財産にしようと理屈をこねるわけです。
Aの主張は,以下のとおりです。

・死亡生命保険金は相続財産と言えるのではないか。
・死亡生命保険金請求権はXに属している,すなわち,相続財産ではないか。

それに対して,最高裁判所は次のとおり結論を出しています。

(1)死亡生命保険金は相続財産ではない。
Xが保険契約者及び被保険者,保険金の受取人がZ及びBである場合,Xの死亡生命保険金は保険金受取人のZ及びBが自らの固有の権利として取得するのであって,Xから承継取得するものではなく,Xの相続財産に属するものではない(最判昭40.2.2)。

(2)死亡生命保険金請求権は,被相続人に属する財産でもない。
Xの死亡による死亡保険金請求権は,被保険者であるXが死亡した時に初めて発生するものであり,保険契約者であるXの払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,Xの稼働能力に代わる給付でもないのであるから,実質的にXの財産に属しているものとみることはできない(最判平14.11.5)。

(3)したがって,死亡生命保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は,民法903条1項に規定する特別受益としての遺贈又は贈与にかかる財産には当たらない(最判平16.10.29)。

(4)もっとも,上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は,被相続人が生前保険者に支払ったものであり,保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当である。上記特段の事情の有無については,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである(同判例)。

(5)したがって,ご質問にあるように,Xの全財産を生命保険につぎ込み,一部の相続人のみが死亡生命保険金の受取人となるような場合,他の相続人との関係で,到底是認することができないほどに著しい不公平が生じていると判断される可能性があり,死亡生命保険金が遺留分の対象となる,ということです。

教訓

原則,死亡生命保険金又は死亡生命保険金請求権は,保険金受取人の固有財産であり,被保険者である被相続人の相続財産を構成しません。
したがって,遺留分の対象ともなりません。 しかし,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解し,当該死亡保険金請求権は被相続人の相続財産を構成し,遺留分の対象となります。
そもそも,遺留分という制度を民法が定めている理由は,被相続人の遺した財産は家族の共同所有に属するという伝統・沿革のもと,相続財産の中で,法律上その取得が一定の相続人に留保されて,遺言による自由な処分を制限することで,被相続人の相続人(家族共同体)において,相続期待権や被相続人の死亡後の生活利益を保障しようという目的があるからです。 被相続人における生前の生命保険契約という自由な処分についても,ある一定の制限をかけなければ,民法が遺留分を定めた制度趣旨が没却してしまいます。そういった事態は避けるべきである,という判断がこの最高裁判所判例にあらわれています。

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