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【vol.24】相続Q&A~相続人等の間で揉めている場合の小規模宅地等の特例の落とし穴~

質問

被相続人甲の相続人は4名の子(長女、二女、長男、三女)、相続財産には、甲の営む診療所の用に供されていたA土地と、不動産貸付業の用に供されていたB土地がありました。
甲は、自らと同居し、甲の亡きあと診療所を引き継ぐこととなっている長男にA土地を相続させる旨の遺言を作成していました。
長男はこの遺言の内容に従い、A土地の名義を甲から自分に変更しました。

しかし、長女は甲の遺言の内容に納得できず、長男を含めた他の相続人を被告として、遺言無効確認等請求訴訟を裁判所に提起しました。
相続税の申告にあたり、長男は名義変更の済んでいるA土地について小規模宅地等の特例を受けることにしましたが、特例の適用にあたっては、他の相続人等の同意が必要だと知りました。
今回のように、係争中の長女から同意を得ることができていない状態でも、小規模宅地等の特例は受けられるのでしょうか。

 

回答

小規模宅地等の特例を受けることはできません。

租税特別措置法施行令第40条の2第5項第3号では、本特例の適用を受ける際に、特例対象宅地等を取得したすべての相続人等につき、本特例の適用を受ける宅地等の選択についての同意を証する書類の提出を求めています。

相続税の申告書は、同一の被相続人から相続等により財産を取得した相続人等が共同で作成して提出することができます。しかし、相続人等のうちに連絡が取れない者がいる場合や、本事例のように係争中の場合に、申告書を共同で作成して提出することができない場合には、個別に申告書を作成し提出しても差し支えありません。
この個別提出の際に、相続人等が、特例対象宅地等のうちそれぞれ異なる部分を選択して本特例の適用を受けようとして相続税の課税価格が確定できない結果となることがないよう、施行令では、同一の被相続人から相続又は遺贈により特例対象宅地等を取得したすべての者の当該選択についての同意を証する書類を相続税の申告書に添付して提出する旨を規定したものと考えられます。
加えて、特例対象宅地等が複数あり、当該特例対象宅地等のうち相続税の申告期限までに分割された特例対象宅地等と分割されていない特例対象宅地等がある場合において、分割されていない特例対象宅地等についても、一定の要件の下、分割が確定することにより本特例の適用が可能となることから、特例対象宅地等を取得したすべての者には、相続税の申告期限までに分割された特例対象宅地等を取得した者のみならず、分割されていない特例対象宅地等が、その後分割され、本特例の適用を受ける可能性のある者、すなわち、分割されていない特例対象宅地等を共有で取得(民法第898条《共同相続の効力》)している者(共同相続人又は包括受遺者)も含まれると考えられます。

本事例は、国税不服審判所の裁決事例(平成26年8月8日裁決)を一部引用したものです。裁決では、なお書きにおいて、租税特別措置法に規定する文言を離れて、みだりに実質的妥当性や個別事情を考慮して、拡張解釈ないし類推解釈をすることは許されないと指摘し、請求人(長男)の拡大解釈を戒めるものとなっています。

 

教訓

 そもそもの原因は、甲の残した遺言にあります。おそらくその遺言には、長男以外の相続人への配慮、A土地以外の財産の帰属、そして甲自身がそのような内容の遺言を書こうと思った経緯などが、きちんと記されていなかったと推察いたします。想いのない遺言は、ときに相続人同士の争いを引き起こすことになりますので、くれぐれもご注意ください。

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