【vol.22】相続Q&A~結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置~
質問
平成27年度税制改正において「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が新たに創設され、今月より施行となりました。本制度の内容について教えてください。
回答
本制度は、20歳以上50歳未満の者が負担する結婚・子育て資金に充てるため、その直系尊属が信託銀行に拠出した金銭等については1,000万円(結婚費用については300万円を限度)まで贈与税がかからないという制度です。
一昨年に創設された教育資金の一括贈与の制度(30歳未満の者の教育資金に充てるため、その直系尊属が信託銀行に拠出した金銭等については1,500万円まで贈与税がかからない。)の延長・拡充に加えて、本制度が創設されることで、若い世代への金融資産の承継が期待されます。
以下、教育資金の一括贈与と比較しながら、本制度の使い道を検証していきたいと思います。
1.贈与時(拠出時)の贈与税の取扱い
①教育資金
1,500万円まで贈与税非課税
②結婚・子育て費用
1,000万円まで贈与税非課税
教育資金に比べて非課税限度額は500万円少ないですが、両制度は併用ができますので、受贈者1人につき、最大で2,500万円の財産移転が可能ということになります。
2.受贈者(受益者)の要件
①教育資金
贈与者の直系卑属(子や孫)のうち、30歳未満の者
②結婚・子育て費用
贈与者の直系卑属(子や孫)のうち、20歳以上50歳未満の者
教育資金に比べて、受贈者の年齢の上限が高いことで使い勝手は広がりますが、結婚費用と謳っていながら、下限が20歳という設定にはいささか疑問があります。
3.信託終了事由と終了時の取扱い
①教育資金
・受贈者が30歳に達したこと
・受贈者が死亡した場合
・信託財産等の価額が零となった場合において終了の合意があったとき
→終了時において残額がある場合には、これらの事由に該当した日に当該残額の贈与があったものとして、受贈者に贈与税が課される。ただし、受贈者が死亡したことにより終了した場合には、贈与税を課さない。
②結婚・子育て費用
・受贈者が50歳に達した場合
・受贈者が死亡した場合
・信託財産等の価額が零となった場合において終了の合意があったとき
→終了時において残額がある場合には、これらの事由に該当した日に当該残額の贈与があったものとして、受贈者に贈与税が課される。ただし、受贈者が死亡したことにより終了した場合には、贈与税を課さない。
基本的に同じ。
4.信託期間中に贈与者が死亡した場合の取扱い
①教育資金
死亡時において残額がある場合においても、当該残額は贈与者の相続税の課税価格に加算されない。
②結婚・子育て費用
死亡時において残額がある場合には、受贈者が贈与者から相続または遺贈により取得したものとみなして、贈与者の相続税の課税価格に加算する。
この場合において、当該残額に対応する相続税額については、相続税額の2割加算の対象としない。
ここが、教育資金の一括贈与との大きな違いでしょう。
「結局、相続税が課されるのなら、贈与した意味がないのでは?」
たしかに、贈与者の相続税の節税という点からは、有効ではないですね。
しかし、本制度のメリットはここにあります。
祖父から孫へ遺贈が行われても、相続税額の2割加算がされないのです。
本来、祖父に子がいる場合に、祖父が孫へ遺贈を行うと、その財産については相続を一代免れることから、相続税額が2割増しとなります。
これが、本制度を利用した場合には、加算の対象から除外されるのです。
祖父にとって直接的な相続税の節税にはならないものの、祖父の子の相続まで考えた場合には、節税となることもあります。
教訓
二つの制度を比較しながら、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の使い道を検証しましたが、結論としては「余命が限られていて都度贈与による財産移転に制限がある方」が、「相続により、相続税の2割加算の対象とせずに財産を孫以降の代へ移転する」という点では有効な制度ですが、そのような事情がないのであれば、生活費や教育費の都度贈与で十分に代用できるでしょう。