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【vol.99】紛争性の高い事例から学ぶ笑顔相続のポイント

横浜平和法律事務所 弁護士の大石誠です。
今期のドラマに「元彼の遺言状」という番組がありました。
原作本では、栄治が作成した遺言状はこのように始まります。
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る。」
民法891条1号は、「故意に被相続人・・・を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」は相続人となることができない(相続人の欠格事由)と定め、民法965条は同条を受遺者の場合にも準用していることから、「僕を殺した犯人」に「僕の全財産を・・・譲る。」ことは法律上できないのではないか、という疑問から始まる小説でした。
ネタバレになってしまいますので割愛しますが、この遺言もまた、故人の 誰かを守りたいとの思いから作成された遺言書でした。

事実は小説よりも奇なりといいますが、相続関係の紛争として、寄与分や特別受益の絡む遺産分割調停、遺留分侵害額請求(民法改正前の遺留分減殺請求)、遺言無効確認、遺産範囲確認、証書真否確認など、今回は紛争性の高い事例の経験を通じて、笑顔相続のポイントを解説します。

(1)唯一の遺産が不動産だけ、あるいは遺産の大半が不動産

例えば、父が死亡し、相続人は長男、二男、三男の3人だけ。唯一の遺産は父と長男夫婦が同居していた不動産(土地・建物)だけといった事例です。
父が遺言書を作成しないまま死亡した場合、遺産分割協議を成立させるには、「長男、二男、三男が法定相続分(各3分の1ずつ)に応じて不動産を取得する」というのが議論の出発点になってしまい、長男夫婦が不動産を100%取得しようと思うと、二男、三男に対して代償金を支払う必要が生じてしまいます。
ここに特別受益や寄与分の話が絡み合ってくると・・・、遺産分割協議が暗礁に乗り上げる可能性が高まります。
この事例における父は、唯一の遺産の全部を長男に相続させる旨の遺言書を作成すべきだったということではなく遺言書の作成など何も将来の手当てをしなかったことが問題でした。
上記の事例だけではなく、遺産の中に不動産があると、
①配偶者・子・両親はおらず、相続人は兄弟姉妹になる予定だが、行方不明の妹がいる
②残された妻の生活が心配だから配偶者居住権を設定しておきたい
不動産の価値をいくらと見るべきか争いが生じる

不動産のまま取得したいという相続人と、現金化して取得したいという相続人とが混在し、協議がまとまらない
といった課題が出てきます。
「遺産分割調停と同時並行で、遺産の管理や収益をめぐる訴訟を進め、それでも解決できなかったので、最後は共有物分割訴訟まで必要になった」ということがないように、遺産の中に不動産が存在する場合には、生前から遺言書の作成等の準備が必要です。

(2)公正証書遺言を作成しましょう

では、自筆で遺言書を作成さえしておければそれで安心かというとそうではありません。
遺言書を作成する普通の方式には、自筆、公正証書、秘密証書とがあります。
遺言書の効力を争う遺言無効確認訴訟では、遺言の方式違反遺言能力の不存在といった争い方が多く、自筆の遺言書ではこれが顕著です。
自筆証書遺言の場合、遺言の全文、日付、氏名を自署し、押印することが求められるとともに(民法968条1項)、加除訂正の方法も定められています(同条3項)
遺言の全文を自書する必要がありますが、これがご高齢の方には大きな負担になります。文法がやや破綻していたり、同旨反復がみられるために遺言能力を争われる場合があります。
その他にも、生前の手紙、かかりつけ医のカルテを収集して、本人の筆跡か否か遺言書作成当時に認知症等の問題があったか否かも争われる場合が多いです。
こういったケースでは、被相続人の死亡から数年がかりでようやく相続問題が解決に至ることになり、被相続人自身はそこまで紛争が激化することを望んでいなかっただろうなと思うときもあります。
公証人が作成する公正証書遺言であれば、本人の自書は不要になりますし、公証人が遺言者の意向を確認しながら完成させますので、後日、遺言無効確認訴訟で争われる心配が減ります。

(3)専門家にみてもらいましょう

では、公正証書遺言であればどんな内容でも将来の紛争を防げるかと聞かれると、そうではありません。
遺言書を作成したとしても、兄弟姉妹以外の相続人には「遺留分」があり、例えば、特定の相続人の遺産のほとんどを相続させるような内容では、遺留分侵害額請求という紛争が生じる場合があります。
相続債務や生前贈与が絡むと計算が複雑になりますので、弁護士に遺言書の文案を確認してもらう必要があります。
また、遺産を公平に分けたつもりでも、相続税が絡むことによって不公平な結果となる場合があります。遺産は公平に分けたけれども、各自の納税額が異なってしまったということがないように、税理士に遺言書の文案を確認してもらう必要があります。

相続診断士の皆様も、上記を笑顔相続のポイントとしてしっかりと押さえていただき、一つでも多く争う相続を減らせるよう、共に活動していければと考えております。

弁護士 大石誠(神奈川県弁護士会所属)
【事務所】
横浜市中区日本大通17番地JPR横浜日本大通ビル10階
横浜平和法律事務所
TEL 045-663-2294

 

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