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【vol.97】危急時遺言について

はじめまして。兵庫県西宮市の行政書士の中野正治です。
私は遺言書作成・相続手続きの支援と成年後見を専門に活動しています。

今回紹介する事例は、余命幾ばくもないご主人の遺言の作成の依頼を、私の所属する後見のNPOが奥様より受けたもので、私が、当NPOの理事長の指名で遺言公正証書作成の手続きを引き受けることになりました。しかし、間に合わずご主人はお亡くなりになりました。

私が、関与する予定であった公正証書遺言とは別に、とりあえずの繋ぎに、理事長の主導で自筆証書遺言が作成されていました。このことは、公正証書遺言を念頭に置きながらも、本人がいつどうなるか分からないので、先ずは、自筆証書遺言をとの理事長の計らいでありました。

これはこれで良かったのですが、本人が、遺言を作成する際、素人の奥様とケアマネのみが立ち合い、アドバイスをしたことを後で知りました。
その遺言書を見せて頂きましたが、判読しにくい字で日付が読みづらく何月何日と特定できず、また手を添えたようにもみられ、とても有効な遺言書とは思えない物でした。
もし、理事長が立ち合っていれば、遺言書作成にあたり最低限の基準はクリアーできたかもしれません。
そうは言うものの手を添えても判読しにくい字しか書けない状態なので、やはり自筆証書はむりであったと言うほかありません。
こうなると、後は公正証書遺言に望みをかけるほかないとなったのですが、その後、ご本人の心理状態が不安定になり、いろいろごたごたもあり、そうこうしている間に前述のようにご本人は死亡してしまいました。

それでは、今回の場合どのような方法を取っておればよかったのでしょうか。
結論は、作成済の遺言書が使いものにならないと分かった時点で、公正証書にとらわれず、間髪をいれずに「(一般)危急時遺言」を作成するべきであったとなります。
これは、後になってよくよく冷静に考えると、そうすべきであったと言えることですが、その時点では「(一般)危急時遺言)がぴったりであることを思いつかず、後の祭り、どうにもなりません。

我々は、普通方式の遺言のうち、秘密証書遺言を除く、自筆証書遺言と公正証書遺言のみに目が行き、特別方式の遺言については思いを巡らさないどころか、一般に全く知られていません。
特別方式の遺言のうち「(一般)危急時遺言」は今回のような危急の場合には、効用を発揮することになりますので、特に成年後見などで高齢者の支援に関わっておられる方に知っておいて欲しいので、その内容をお伝えします。

一般危急時遺言・・・危急時遺言のうち(死亡の危急に迫った者の遺言)臨終に際しての遺言(民法976条)について

これは一言でいえば臨終間際の者が遺言を作成することを可能とするものです。以下その概要を述べます。

一般危急時遺言は証人3人の立合いのもとその1人に遺言の趣旨を口授(字が書けなくても良い)し口授を受けたものがこれを筆記し遺言者及び他の証人に読み聞かせまたは閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名押印します。
この遺言の効力発生要件としては、遺言の日から20日以内に証人の1人又は利害関係者から家庭裁判所に申立てをし、確認(家庭裁判所が遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得ること)を得なければなりません。
申立てを行った後、遺言者が存命である場合には、家庭裁判所の調査官が遺言者の意向が遺言書の内容と相違ないか、本当に危急かを見極めるため遺言者の様子を確認しに来ます。(あわせて、証人3人に対して遺言書作成時の様子を確認することも有ります。)
申立前、もしくは申立中に遺言者が死亡した場合には、証人3人に対して家庭裁判所の調査官が遺言書作成時の様子を確認します。

なお、この遺言はあくまで緊急的な措置で、遺言者が普通方式で遺言が出来るようになった時から6カ月生存していた場合は、その効力を失うので危急時から脱したときは、公正証書遺言に移行するのがよいです。

 

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