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【vol.87】『被相続人が急を要する事態に。想いを繋いだ死因贈与契約』

はじめまして沖縄県で司法書士をしています日高憲一と申します。よろしくお願いします。
当職で担当した案件について解説させていただきます。

1 家族の状況

Aさんは80代の女性です。
以前にも旦那様の相続登記のご依頼をいただきましたが、今回、別件で相談の電話がありました。話を伺うと、姉のBさんが病に侵され余命1ヶ月の宣告を受けたとのことでした。
Bさんにはお子さんがおらず、法定相続人は6名の兄弟姉妹です。
Bさんは、元々、重病に罹患し、施設に入所しており、身の回りの世話は近隣に住んでいた妹のCさんが行い、また、Aさんも含めて姉妹の仲は良好でした。

2 依頼者の意思

ただ、問題は、相続人以外の方でも長年自己の生活を支援してくれた者への感謝の意思を有すること、他方、相続人のうち数名DE Fは不仲で絶縁な状況なものや、家族から勘当されている者もいることでした。
つまり、依頼者本人は、法定相続分によるものでなく、自己の生活を支えてくれた方に多くの財産を残す意思を明確にしているのです。

3 遺言書の検討

当事務所では、通常の場合には、遺言書の作成を考えていらっしゃるお客様がいらっしゃれば、確実性の高い公正証書遺言をお勧めしております。
今回のケースも、公証人に施設まで出張で対応していただき、公正証書遺言を作成することも検討いたしましたが、残された時間が限られており、公証人役場から遠く離れた過疎地での面談をする必要があり、公証人役場との日程の調整までBさんの生命が持ちこたえられるか判断に苦しむような状況でした。
また、Bさんは持病の為にあまり上手く文字が書けなかったため、自筆証書遺言の負担は大変大きいものでした。

4 対策

そこで、今回は公正証書遺言の作成が間に合わない場合に備えて、まずBさんとそれぞれ受贈者との間で死因贈与契約を結び、更に、可能ならば、公正証書遺言の作成をする、二段構えのプランを取りました。
これならば、公正証書遺言の作成が間に合わなくとも、死因贈与契約によって、Bさんのご意思が実現できます。
なお、仮に、法律的な手続きはできたとしても金融機関の実務上スムーズに執行がうまくいくとも限りませんので、本人の意思が明確な時点に金融機関との事前調整も行いました。
さらに、契約により受贈される側の相続税や贈与税も、税理士により試算しました。

5 コロナ禍における本人確認の制限

そうなると、契約における立ち合いが課題となり、『コロナ禍での面談制限』という問題が出てきます。担当した施設では、高齢者と多くの重病に罹患している患者さんがおり、厳しく制限されていました。施設側との交渉の結果、親族以外の者の立ち入りはできないことになりました。
そこで、当職では、医療施設の担当者の操作のもとで、オンラインによる面談をして、本人の意思を確認しました。署名等については、施設担当者のサポートのもとで署名と押印を行いました。
病気療養中であることで多くの時間を要することもできないため、限られた時間でのやりとりになりましたが、依頼者様における法律行為の内容の理解と適正な手続きはどうにか行えました。

6 結果

なお、実際、Bさんは公証人との面会のスケジュールの前に亡くなられてしまいました。
しかし、死因贈与契約によってそのご意思は達成されました。公正証書遺言を選択した場合には、おそらく遺言書の作成は間に合わなかったでしょう。
とすれば、法定相続の手続きとなり、相続人間の協議がどうなることか、少なくとも依頼者の意思をそのまま実現することはできなかったように思えます。
依頼者のご家族や施設の関係者からは、これだけ迅速に対応して頂いたことに対してお礼の言葉をいただきました。
本人の意思を実現する方法の選択、コロナ禍での本人確認の方法について、金融機関との調整や相続税と瞬間的に行いました。
このような職業に携わっていて良かったと思える瞬間でした。

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