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【vol.83】『死後事務委任契約の活用事例』

みなさま、はじめまして。東京都新宿区四谷にあるノースブルー総合法律事務所で代表を務めている弁護士の國安耕太です。
わたしは、いわゆる企業法務という分野、特に従業員数10名~300名程度の中小企業のリスク管理・労務管理を主たる業務としており、事業承継や相続に関する多くのご相談を受けています。
その中には、もちろん調停や訴訟等の紛争もありますし、遺言書の作成や遺言執行といった業務を行うこともありますが、今回は、一般的にはまだあまり認知されていない死後事務委任契約を取り扱った事例をご紹介したいと思います。

みなさまは、死後事務委任契約という言葉を聞いたことがありますでしょうか。
死後事務委任契約は、委任者が、第三者に対して、自分が亡くなった後の諸手続や葬儀・埋葬等に関する事務(死後事務)に関する代理権を付与して、処理を代行してもらうという内容の契約です。
通常、このような死後事務は、残された家族や親族が行っていますので、そのような家族や親族がいるのであれば、死後事務を委任する必要性はありません。
そのため、現時点で死後事務委任契約を必要としている方はそう多くはないかもしれません。

しかし、日本は、言わずと知れた超高齢化社会であり、2019年の統計では、65歳以上が総人口に占める割合は、なんと28.4%にも上っています。
子どもがいなかったり、親族と疎遠だったりする場合だけでなく、子どもたちも高齢で、死後事務を家族や親族に頼むことができないということが十分考えられます。
また、一説によれば、2040年には65歳以上の単身世帯が2割を超えるとも言われていますから、このようないわゆる「おひとりさま」が増えてくると、死後事務を家族や親族に頼むことは難しくなってくる可能性があります。

このような場合に備えて予め死後事務を代行してもらう契約、これが死後事務委任契約です。

ある人が亡くなったあとの諸手続は、残された家族や親族が行うことが前提になっています。
葬儀を取り仕切ったり、埋葬の手配をしたり、借家の解約や引渡しをしたりといった死後事務は、誰かが自動的にやってくれるものではありません。

以前、テレビを見ていたら、身寄りのない方が亡くなった際、「銀行に預金を預けているので、死んだらそのお金を使って埋葬して欲しい」といった書置きが自宅で見つかったといった話が出てきました。
もし、このような書置きがあったとしても、役所が銀行に行って預金をおろすことはできません。
役所には、そのような法的権限がないからです。

亡くなったときに他人に迷惑をかけたくないという理由で、自分の葬儀費用を残しておく人は多いと聞きます。
しかし、ただ葬儀費用を残しておくだけでは、そのお金を目的通りに使用することはできませんし、自分の思い通りの終活を完了することもできません。

そこで、死後事務を家族や親族に頼むことができない場合や、思い通りの終活をしたい方は、死後事務委任契約を検討することをお勧めしています。

わたしがご相談を受けたクライアントも、まさに、このような状況にありました。
ご主人はすでに亡くなっており、ご主人の連れ子であるお子さまが1人いらっしゃいましたが、この方と折り合いが悪く、10年以上没交渉となっていました。
このため、財産全てをお子さまに相続させるのではなく、一部を国の研究機関に寄付(遺贈)したいとのご意向でした。
また、よくよくお話を聞いていくと、ご主人の遺骨が納められているお墓はあるものの、ご本人は、できれば海洋散骨にして欲しいというご希望を持たれていました。
ただ、このまま何もしなければ、亡くなった後、どうなるかは10年以上没交渉であったお子さま次第です。
そこで、わたしは、財産の一部を国の研究機関に遺贈する内容の公正証書遺言を作成するとともに、海洋散骨をするための死後事務委任契約を締結することを提案し、クライアントのニーズに応えることができました。

以上のとおり、財産に関する問題であれば、遺言で対応できますが、財産以外の問題については、遺言だけでは適切に解決することができない場合があります。
特に、おひとりさまについては、財産以外の相続の問題を抱える方が多いように見受けられます。

ぜひ、遺言だけでなく、死後事務委任契約という選択肢があることを知っておいていただければと思います。

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