相続診断協会は、相続診断士の認定発行・教育・サポートを行っている機関です。

相続診断協会相続診断協会
0366619593

【vol.30】“もめている”しかし“争っていない”相続事案

司法書士法人一休法務事務所の牧と申します。
当事務所では、年間500件を超える相続手続相談に、所属司法書士で対応しておりますが、実際に相談に応じて、ほとんどのケースでは「家族ってやっぱり素晴らしい」と感じることがほとんどです。

家族というのは、法律上の定義ではありませんので、ここでは、訳あって入籍しないまま家族として暮らしてきたご家族も含めます。相続というと、法律上の法定相続にとらわれがちですが、遺言の制度も含めると家族や相続というものは本当に多岐にわたりますね。
今日は、日々のご相談の中から、「もめている」分類に該当する事例を1つ紹介します。

 

  事 例 

このケースは一見「もめている」に分類されるものと思われます。
父親の相続に関して、歳のはなれた兄と弟が遺産分割協議書に印鑑を押さないという事例です。

お兄様は
「父親の財産は、一族の名を残すためにも、全部自分が相続させてもらいたい。お前の相続分があるかも知れないが、お前を大学まで行かせるために、父と自分は一生懸命働いて、苦労して学資を支払ったのだ。どれだけ苦労したかお前にはわからんだろう。一族の墓には入れてやる、いい加減手続きに協力をしろ。」と言い、

弟様は
「自分は幼少の頃から、自分の意見に関係なく、勉強しろと言われてきた。奨学金の一部も自分が返した。それを金がかかったと言われるなど一方的過ぎる。そんな言い方をされて、印鑑を押す気にはなれない。二度と話し合いをする気もない。」と言います。

家族で集まってお話をされても、周辺ご家族の意見も入ったりで、結局怒鳴ったり、腕を振り上げるけんかに発展するのを15年以上繰り返しているとのことです。この日も、椅子をひっくり返しての言い争いになりました。

 

ちょっと聞いても、永久に終わらないのではないかと思いますが、実はこの件、どこにも法的な争いはないのです。
弟様は、印鑑を押す気になれないと言っているのであって、遺産を分けて欲しいとは言っておらず、「そんな言い方をされては印鑑を押す気になれない」わけです。

 

実は、このようなケースは非常に多く、遺産分割で争っているわけではないんですね。
そして、お父様とお兄様が苦労して学費を出したことも、それによって弟様が一生懸命勉強したことも、皆さんの話が一致し、お父様とお兄様の苦労を弟様が受け止めて勉学に励んだという素晴らしい一家のお話です。

当方としては、お話合いというか喧嘩のお席で「○○家様は、まったく争っておられませんので、専門家の出番はないように思います。素晴らしいご一族ですね。次にご兄弟が会うのが、どちらかのご葬儀では悲しいですよ。」とお伝えしました。
翌日、同席されたご家族経由で、当事務所に名義変更の手続きを進める旨の連絡がありました。なんと、できる手続きは、家族で協力して自分で行うとのことで、司法書士としてはまったく商売あがったりで、とんでもない一族だと言いたいところですが、とても嬉しい気持ちになりました。

 

相続でもめている という相談は非常に多いのですが、この事例のように、実際には相続争いではなく、コミュニケーションの取り方がうまく行っていないケースも多いものです。笑顔相続を目指す「相続診断士」の役割を達成するには、調停技法というか、ヒアリングと争点の整理を上手にできる技術が必要だと再確認する事案でした。

 

 

PAGE TOP