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【vol.140】遺言書がなかった相続――「公平」をめぐって揺れた家族から学んだこと

相続の現場で、私が何度も感じてきたことがあります。
それは、相続で本当に難しいのは、財産の金額ではなく、家族それぞれが考える「公平」の違いだということです。
以前、あるご家族から相続のご相談を受けました。お父様が亡くなられ、残された財産はご自宅、預貯金、株式などでした。
相続人は、お母様と三人のお子様です。皆様、お父様を大切に思っておられ、最初から争うつもりなどありませんでした。
しかし、遺言書はありませんでした。

話し合いが始まると、少しずつ考え方の違いが見えてきました。
長男の方は、これまで家のことや家業に関わってきたという思いがありました。そのため、「自分がある程度多く引き継ぐのが自然ではないか」と感じておられました。
一方、他のご兄弟は、「兄弟なのだから、基本的には平等に分けるべきではないか」と考えておられました。
また、皆様に共通していたのは、お母様の今後の生活をきちんと守りたいという思いでした。
誰かが欲深かったわけではありません。むしろ、それぞれが家族のことを考えていたからこそ、話し合いは難しくなっていきました。

私はその時、「平等」と「公平」は同じではありません、とお伝えしました。
平等とは、同じ割合で分けることです。
一方で公平とは、それぞれの事情、これまでの貢献、生前の援助、今後の生活を踏まえ、家族が納得できる形を探すことです。
たとえば、家業を支えてきた方の貢献をどう考えるのか。
生前に援助を受けていた方がいる場合、それをどう扱うのか。
親と同居して生活を支えてきた方の負担をどう見るのか。

こうした点を整理しないまま、単純に「均等に分けましょう」と進めると、かえって心の中に不満が残ることがあります。
このご家族にとって一番大きかったのは、お父様の想いが言葉として残されていなかったことでした。
お父様は、家を誰に守ってほしかったのか。お母様の生活をどのように支えてほしかったのか。
子どもたちに、どのような関係でいてほしかったのか。それが遺言書や手紙として残されていれば、ご家族の受け止め方は違っていたかもしれません。
相続は、財産を分ける手続きである前に、家族の想いを引き継ぐ大切な場面です。
しかし、準備がないまま相続が始まると、残された家族は「お父さんなら、どう考えただろう」と悩みながら、答えのない話し合いを続けることになります。

この事例は、私自身にとっても大きな学びとなりました。
相続で大切なのは、争いが起きてから解決することだけではありません。
元気なうちに、自分の想いを家族に伝え、遺言書や財産整理という形にしておくことです。
あの時、お父様が生前にご自身の想いを言葉にし、遺言書として残しておられたら。
家業への思い、お母様への配慮、子どもたちへの願いを一言でも伝えておられたら。
ご家族は、財産の多い少ないではなく、お父様の想いを軸に話し合うことができたかもしれません。

「あの時こうしておけば、笑顔相続へ導けたかもしれない」

そう感じる相続の現場は少なくありません。
だからこそ、相続の準備は、財産を多く持つ方だけのものではありません。
大切な家族に、自分の想いをきちんと遺すための準備です。相続を争族にしないために、そして家族が笑顔で故人の想いを受け継ぐために、元気な今こそ、一歩を踏み出すことが大切だと感じています。

 

相続コラム最前線


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