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【vol.118】「覆った公正証書遺言。裁判の証人になって分かったこと」

1.自己紹介

初めまして。司法書士法人セントリーガル事務所の代表司法書士、飛田幸作です。
弊社は平成18年に個人事業として設立し、令和5年に司法書士法人として新たにスタートを切りました。
主に企業経営者様の事業承継や、富裕層の資産承継に関するご相談を中心に業務を展開しており、これまでに相続案件において延べ500件以上の実績を積んでまいりました。

弊社の取り組みは、代表司法書士だけでなく、タッフ全員が相続業務に関する自己研鑽を積み、どのお客様にも質の高い対応ができる体制を整えています。

2.覆った遺言公正証書

相談の経緯

ある日、弊社にご相談いただいたのは、80歳の男性Aさんの遺言作成に関するものでした。Aさんは生涯独身で、兄弟が2人いるものの、20年以上も交流がない状態でした。Aさんは長年薬剤師として働いており、一定の資産背景を持っていました。

弊社への直接の相談者は、保険外交員のBさんでした。Aさんと30年以上の付き合いだったそうで、独り身のAさんにとって、Bさんは家族のような存在だったそうです。
Aさんは自身が居住するマンションをBさんの老後の住まいとして提供したいと考えていました。そこで、Aさんの希望に基づき、公証役場で遺言公正証書を作成しました。

しかし、その遺言作成から約2年後、Aさんの訃報が届きました。正確にはその半年前に亡くなっていたのですが、Aさんのご親族とトラブルになっていたため中々報告ができなかったそうです。
トラブルとはAさんの死後、遺産を整理していたAさんの兄弟から、「BさんがAさんの預金を使い込んだから弁償しろ、遺言は無理矢理書かせた」などのクレームを言われていたそうです。
その後、Aさんの兄弟から遺言が無効だと主張する訴状が届いたとの連絡がありました。
内容によると、遺言作成から半年後にAさんが認知症と診断され、兄弟により東京に引き取られたとのことでした。
さらに、BさんがAさんをそそのかして多額の現金を流用した疑いがあるとされ、遺言公正証書の無効を求める裁判が提起されました。

裁判の経過と結果

その後、訴訟が提起され、私も証人として法廷に立つことになりました。証人尋問では予想通り、公証役場でのやり取りへの証言を求められました。
私は、Aさんの意思能力に問題はなく、裁判でもその点を強調しました。
私はBさんにとって良い結果が得られると信じていましたが、裁判は2年近くかかり、準備書面等で泥棒扱いの主張を度々繰り返されBさんは精神的に疲弊してしまいました。

最終的に、Bさんの精神的にこれ以上裁判を続けることが難しくなり、遺言に従った不動産の名義変更を行わずに和解することとなりました。
結果として、Aさんの遺言の内容は実現されず、Bさんにとっても辛い結果となってしまいました。

遺言作成における教訓

今回のケースは、公正証書による遺言が万能ではないことを示すものです。
遺言作成時にAさんは自らの意思で話していましたが、訴訟上の駆け引きにより、遺言の実現が阻害されました。生前贈与や養子縁組という選択肢もあったかもしれませんが、その時点では提案に至らなかったのが現実です。

相続に携わる皆様には、このような想定外の事態も起こり得ることを念頭に置き、ご提案やご相談対応に臨んでいただければと思います。

 

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