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【vol.113】「私の相続業務体験談」

◆自己紹介と、相続体験事例

土地家屋調査士 三杉美仁(みすぎよしひと)と申します。
土地家屋調査士とは、土地や建物が「誰のものであるか」を法務局へ「登記」する専門業の1つになります。
また、その登記に伴う土地の境界確認や、その他関連業務も行い、「相続」では登記されていない土地や建物は相続人が相続できず、また相続内容によっては、登記内容を変えないと相続ができないため、相続に関連する実務も行っています。

それ以外にも、私は現在は他界した父が司法書士をしており、私の事務所の電話番号を父の事務所と同じにしたことで、今でも父のお客様のご子息から再相続の依頼のお電話を頂いており、自然と相続に触れる機会が多くなっています。

相続問題は、事前に被相続人の方が遺言書を残してくださると、もめごとが起きる率が下がります。
しかし、父は、もめた時でも、資産の価値や各相続人の立場を考慮して全員が納得できる遺産分割を提案できていた様で、もめていたはずの相続人様から、御子息へ「相続は三杉司法書士に頼むように」とメモが残されていた、との理由で、何件か再相続の依頼のお電話を受けたことがあります。
但し、父の様な存在はあまり多くない様なため、このような司法書士や弁護士をもし皆様が見付けたら、しっかりとつながりを持っておくと良いと思います。
私も何件か覚えがありますが、争族を笑顔相続に変えることが出来る、貴重な存在だと思います。

なお、私個人の相続関係の体験としては、どちらかというと「相続自体」だけでなく、「相続後」「遺産分割協議後」の対応も多く経験してきました。
今でもよく覚えているのは、弁護士や司法書士、土地家屋調査士ではない士業の方が、お客様に「遺産分割協議書を作れます」と伝え、お客様がお父様(被相続人)からの遺産分割協議書の作成をその士業の方に頼んで作成してもらった、という案件です。
この時、被相続人名義の「1つの土地」で、税金が、半分は息子様に宅地としてかけられており、もう半分は、お母様へ田としてかけられていた土地があったのですが、なんと遺産分割協議書の作成を請け負った士業の方は、土地の相続なのに、土地の課税部分を単位として相続したように書類を作成してしまっていました。

例えば、1つの土地の、1/2が息子様へ宅地として課税されており、残りの1/2がお母様へ田としての課税とすると、「宅地課税の部分のみ」を息子様、残りの「田の課税部分のみ」をお母様が相続する、と書かれていました。解るでしょうか?土地の「単位」は、1筆・2筆・・・であり、1筆の中の「欲しい部分のみ」を相続するという事は出来ません。
そのような相続登記も、ありません。

「相続」とは、そもそも何なのか?「所有権」とは、何なのか?が、全く解っていない人が作成した、「相続が出来ない遺産分割協議書」でした。
「所有権」とは?「単有」とは?「共有」とは?が解らない人が、所有権を扱わない士業の中に居て、お金を払ってきちんとした遺産分割協議書を作成したと思っているお客様を、悲しませた事例でした。

このお客様には、土地の欲しい部分だけを自身の所有権名義にしたいのなら、「分筆」という手間が必要になる事、そのためには、周囲の土地との「官民境界確認」が必要になり、隣地者全員の承認印が必要になる事、分筆申請の為に、共有名義で一旦土地所有をするなら、分筆後に「息子様とお母さまの所有権の付け替え・交換」の所有権登記も必要になる旨をお伝えし、かかる費用(高額)もきちんとお伝えしてきました。
この遺産分割協議書を作成した士業の方からは、欲しい部分だけ相続出来たと理解できるように聞いていたらしく、一度そちらと相談をしたいとのことになり、そのまま相談しましょうという終わりとなりました。

他にも、「遺産分割協議書は作成したが、相続登記をしていなかったので、危うく隣地に1つの建物の敷地全部をとられそうになった」とか、「遺産分割協議書は作成したが、これも未登記であったため、他の相続人が赤の他人に相続分を売り払う事が出来る状態であった」なんて事例も経験をしました。

古い遺産分割協議書のみでは、相続登記を申請した時に、法務局から「再度の遺産分割内容確認」が必要だと言われ、相続登記が止まる事があります。
私もこの経験があり、この様な時は、私が遺産分割協議書ではなく遺産分割証明書を作成して登記を通し、この時は数千万円の銀行融資の可否まで関わっていたため、無事に相続登記が出来たことで、笑顔相続に貢献できた事もありました。

それ以外でも、誰も住んでいない親の家(空き家)が、市から「特定空き家」に指定されそうになり、思い出を残したい長女と、高額になる税金の支払いをしなくて良い様に、かつ、ご近所の迷惑にならないように取り壊したい三女との争いになり、三女が相続放棄するという案件に関ったこともありました。
この時の主張の争いは、どちらにも言い分はあるとは思いましたが、皆様ならどうしますか?

なお、最近は「被相続人になる立場の方」からの土地・建物の登記の依頼が、増えてきています。

「遠くに嫁いだ一人娘が相続した時に、住まないなら売ると思うけど、その時になって売れないとならない様に」とか、「相続するために、新たにお金を使わなくて済むように」というお考えの方達になります。

土地は、「境界」がはっきりしていないと、買い手が付かないので売れません。そして、固定資産税(支払)だけが、毎年何万円と来ます。
また、そのような土地の境界をはっきりするには「境界確認」という手続きが必要になりますが、これも数か月かかるうえに、何十万円もします。
さらに、「登記の無い建物」は相続自体が出来ないため、登記をするにはまた費用が掛かります。
また、もう取り壊すしかない建物付きで土地を相続した場合、一軒の普通の家の解体には、最低でも300万円前後はかかるでしょう。

上記の様な、登記が無くて「相続を成立させるためにお金を使う」事が発生すると、「誰がそのお金を払うのか」「払った人が相続できるのか」等の問題が起き、このお金問題が引き金になって争族になるケースもあります。

誰が何を継ぐかだけでなく、何にはいくらかかる何を相続するといくら位の出費が見込まれる、まで診断できると、遺言書作成時に遺される方のトラブル回避も見込めるので、作成者にも喜んでもらえるのではないかと思います。

◆相続診断士へのアドバイスや意見

もし、不動産をお持ちのお客様、関係者の方がいましたら、ぜひ出来る範囲で良いので「ご近所とは仲良く」するように誘導してあげてください。
これも実例ですが、私がまだこの仕事の修行時代に、こんな事例がありました。

土地の境界確認を受注した土地の、今の所有権者の「前の所有権者」さんの話ですが、過去に隣地から境界確認を受けた時に、欲を出して隣地側の土地内に境界があると主張して、その境界確認を不成立にした過去がありました。
その後、その方は高齢になり、体調を崩して入院する事になったそうですが、入院費用を作るために土地や建物を売ろうとした所、今度は自分が土地の境界に合意を貰えず不成立となり、売ることが出来ないまま、ある日突然いなくなり、空き家になり、競売か何かで今の所有者に所有権が移動したという案件でした。

おそらく、このケースはほとんどお金が入らない状態で土地と家を手放したと思われます。また、看病をしたご家族か、親類の費用負担も大変だったことでしょう。
この場合、ご家族か親類の方と良い人間関係で有れば、良い最期をお迎えになれたと思われますが、一方的に負担をかけた状態であれば、あまり良い最期をお迎え出来なかったかも知れません。
ご近所に対し、一般的に良くない事をすると、それは後日自分に跳ね返ってきても不思議ではありません。かと言って、何でもご近所に同調しろと言うわけでもないので、「出来る範囲で良いのでご近所とは仲良く」するように、また「一般的に良くないと判断されることはしない様に」誘導してあげて下さい。
しまったと思った時は、もう既に時遅しです。

色々と書きましたが、この内容が皆様の活動の一助になれば幸いです。
立場が違えば、見えているものも違っているかと思います。
より多い視点で、笑顔相続の為に、私の経験も活かしていただけると幸いです。

 

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