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【vol.101】届かぬ思い

相続診断士の皆さま,はじめまして。京都市の弁護士法人みやこ法律事務所で弁護士をしております粟野浩之と申します。
今回は,被相続人の配偶者と母親との間で争いになった事例を紹介したいと思います。

Aさんには妻Bさんと高齢の母Cさんがいましたが,AさんとBさんの間には子供がいませんでした。
CさんはAさんが賃借しているマンションに一人で住んでいました。
Cさんは攻撃的で自分が思う通りに物事が運ばないと気が済まない性格だったそうですが,AさんとBさんはCさんと仲良くやっていきたいと思っていました。

ある日Aさんは悪性腫瘍の疑いがあると診断されました。
余命が長くないことを悟ったAさんは全財産をBさんに相続させる内容の自筆証書遺言を急いで作成し,作成の3週間後に亡くなりました。
Aさんは,Cさんが困ったときには助けてあげて欲しいとBさんに言い残しており,BさんもAさんの遺志に従うつもりでいました。また,このことはCさんにも伝えていました。
49日が終わって,BさんはCさんに,相続について話し合いがしたいと切り出しました。自筆証書遺言があることは伝えませんでした。
しかし,Cさんは話し合いに応じようとはしませんでした。それどころか,しばらくするとCさんは,AさんとBさんを一方的に非難するような電話をかけてくるようになりました。Bさんは相続についてCさんと話し合いをするのは無理だと思うようになり,仕方なく自筆証書遺言の検認の手続きをし,遺言の執行に取り掛かりました。

しばらくしてBさんのもとにCさんの代理人弁護士から遺留分減殺請求の通知書が届きました。そこでBさんの代理人として私が交渉を担当することになりました。
交渉では,遺留分の算定に際して団体信用生命保険付きの住宅ローン年金型の退職金をどう取り扱うかが問題になったほか,Cさんが住んでいるマンションの契約関係の処理やお墓の名義変更が問題になりました。
約1年の交渉の末,ようやく合意書案の作成にまで辿り着いたのですが,突然,Cさんの代理人弁護士から辞任の通知が届きました。

その後,別の弁護士がCさんの代理人に就き,Bさんを被告とした訴訟が提起されました。
訴訟でCさんはBさん名義の預金もAさんの遺産であると主張してきました。
また,Aさんへの住宅購入資金の生前贈与が「Cさんの老後の面倒をみる」との負担がついた贈与であり,Aさんが亡くなったことで負担を履行できなくなったので贈与契約を解除すると主張して,贈与した金銭の返還を請求してきました。

約2年の裁判の末,裁判所から和解案が示されました。
Bさん名義の預金もAさんの遺産であるとの主張や,負担付贈与の解除の主張は認めず,他の争点についても概ね当方の主張に沿った内容の和解案でした。
Cさんは最後の最後まで不満を漏らしておられましたが,結局,裁判所和解案の内容で和解が成立しました。
Bさんは裁判が終わってすぐCさんとの姻族関係終了届を提出されました。
Cさんが困ったときには助けてあげて欲しいとのAさんの遺志に反することになりますが,誰もBさんを責めることはできないと思いました。

被相続人が笑顔相続を望んでいても,相続人間の人間関係が良好でなければ争いがおこってしまう可能性があります。
本件では,AさんとBさんはCさんと仲良くやっていきたいと思っていたのですが,残念ながらCさんにはAさんとBさんの思いが届いていなかったようでした。もしかしたらAさんとBさんの思いが届くようなCさんへの接し方があったのかもしれません。
笑顔相続のためには,相続に関する法律や税金の知識だけでなく,より広く家族関係でのコミュニケーションや心理学についても学んでおく必要があると感じた事例でした。

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