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【vol.45】相続で実親子関係の不存在が問題となる事例

全国の相続診断士の皆さん、こんにちは。
岩手県盛岡市の佐藤邦彦経営法律事務所の代表弁護士・佐藤邦彦と申します。
今日は、近頃受けた電話による法律相談で興味深いものがありましたので、それをご紹介します(事案はデフォルメしています)。

 

相談内容

最近、父Aが亡くなった。
私は父の再婚後の子で、父の戸籍関係を調べたところ相続人は自分と前妻の子のYの二人のようである。
自分は、Yの存在を今回初めて知った。

ところが、最近、父の弟(つまり叔父)からこんな話を聞かされた。

「AにはYという子がいるようだが、実は以前、Aから、なかなか子供ができないので、前妻の親戚の子を自分の子として届け出たという話を聞いたことがある」

これを聞いた私は驚き、AとYの間の実親子関係を争いたいと考えている。
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この事例におけるYは、俗にいう「藁の上からの養子」に当たります。
まず結論から言うと、Yが本当に「藁の上からの養子」であれば、YにはAの相続権はありません。

被相続人の子は相続権があるのですが、ここにいう「子」とは法律上の親子関係にある子に限られます。
「藁の上からの養子」の事例では、確かに出生届が提出され戸籍上は親子となっているのですが、真実の血縁関係があるわけではないので、実親子関係が発生することはなく、出生届は無効です。
また、判例は、このような虚偽の出生届をもって養子縁組に転換することも認めていません。

それでは、Xは当然にAの唯一の相続人としてAの遺産全てを承継できるのでしょうか。

結論から言えば、本事案ではYに相続人としての外観がある以上、正式な手続を経てYの相続権を否定してやらなければならず、XはYに対して親子関係不存在確認請求訴訟を提起し、親子関係の不存在を確定させた上で戸籍を訂正する必要があります。

親子関係不存在確認請求訴訟においては、AY間に生物学的な親子関係が認められるかどうかが争点になりますので、DNA鑑定を行うのが一般的です。

もっとも、親子関係の不存在が立証されたとしても、親子関係不存在確認請求が権利濫用にあたるとして排斥される場合があります。

なぜなら、虚偽の出生届に基づき実子として育てられた子には何の落ち度もないからです。

判例(最高裁平成18年7月7日判決)は、親子関係不存在確認請求が権利濫用にあたるか否かの判断要素として、以下のような要素を考慮しています。

  1. 虚偽の親子の間に実の親子と同様の生活の実体があった期間の長さ
  2. 判決をもって実親子関係の不存在を確定することにより虚偽の出生届がされた子及びその関係者の被る精神的苦痛、経済的不利益
  3. 改めて養子縁組の届出をすることにより虚偽の出生届をされた子が戸籍上の両親の嫡出子としての身分を取得する可能性の有無
  4. 親子関係不存在確認請求をするに至った経緯、動機、目的
  5. 実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合に実子以外に著しい不利益を受ける者の有無

 

あいにく相談者は遠方在住の方だったので、私が受任するには至りませんでしたが、以上のような解説をしたところ、方針が見えたと喜んでおられました。

このような事案は、もともと知らない者同士の話ですので、激しい争いに発展しがちです。
しかし、事実関係を丹念に調査し、相手方の実情・生活実態をきちんと理解できれば、笑顔相続に近い形で落着させることも決して不可能ではないと思います。

 

終わりに

今回ご紹介した事例は電話相談の案件でしたが、私は事務所の方針として電話相談も積極的に受けるようにしています。
広告では「電話相談も歓迎」と書いているところは結構ありますが、市中の法律事務所で電話相談に積極的に応じるところは実際にはそれほど多くないように感じます。

しかし、私は、電話相談で密度の濃いやり取りができれば、それだけ相談者との早期の信頼関係構築も容易になると考えており、時には「その後、どうなりましたか?」とフォローの電話も入れています。
笑顔相続普及のためには、我々専門職の方から積極的に歩み寄ることも必要と考えます。

 

 

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