【vol.49】相続Q&A~相続財産と代償分割~
質問
遺産分割協議における「代償分割」の取り扱いについて教えてください。
代償分割であれば、相続人同士で金銭の授受が行われても、贈与にならないと聞きました。
この「鑑定評価額」を用いる際に留意すべき点はありますか?
回答
代償分割とは、遺産分割にあたって共同相続人などのうちの1名又は数名に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の共同相続人などに対して債務を負担するもので、現物分割(相続財産をそのまま分けること)が困難な場合に行われる手法です。
代償分割の代表的なケースとしては、相続財産が自宅と現預金が少々、相続人が子2名というような場合に、自宅を単独で相続する子Aが自宅を相続しない子Bに対し、子Aの固有の財産のうちから金銭を渡して、遺産分割の均衡を図るということがあります。
これを代償資金と言います。
代償資金は、あくまでも遺産分割の一環で行われるため、相続人同士でたとえ数百万円単位の金銭の授受が行われても、原則としてこれに贈与税がかかることはありません。
このような説明をすると、こんなことを考える方がいらっしゃいます。
「代償分割を使って、うまいこと財産移転ができないだろうか・・・」
具体的なケースを示すと次のようになります。
相続財産:6,000万円(この他に、母が受取人の死亡保険金1,000万円)
相続人:母、子2名
背景:母自身も財産を持っており、生前に父からも贈与を受けていた。
母は自身の財産と生前に父から受けた贈与により、今後の生活に必要な資金は既に確保できていたため、今回の相続では財産を一切取得せず、子2名で折半してもらうことにしました。
死亡保険金についても、父の気持ちは大変ありがたかったのですが、自分は父から生前に十分財産をもらっていて、これ以上あっても使い道もなければ、今度は自身の二次相続の相続税が気になるばかりです。
そこで、母はこの死亡保険金についても、子に代償資金として渡すことにしました。
自分が使わずに持っているよりも、子に使ってもらった方がいいだろうと。
果たして、この結果は・・・
受け取った子に対して、贈与税が課税されます。
なぜなら、代償資金を支払う母が相続により財産を取得していないためです。
死亡保険金は母固有の財産であり、相続財産ではありません。
生前贈与などの特別受益があったとしても、その特別受益分は相続財産とはなりません
(法定相続分の算定の際には相続財産として算入されます)。
相続財産(今回、母が受け取った相続財産はゼロ)を超える代償資金は、受け取った者に贈与税がかかります。
教訓
代償資金の原資として、生命保険を用意しておくということは、相続対策の場面ではよく行われます。
しかし、相続の全容を把握せず、断片的な情報と小手先のテクニックだけで対策しようとすると、思わぬ落とし穴にハマる恐れがあります。
今回のケースでは、母にそのような意向があるのであれば、事前に保険金の受取人を母から子に変更しておけばよかったのです。
代償分割は遺産分割を円滑に進め、笑顔相続を実現するために非常に有用な手法です。
ときに専門家に相談しながら、正しい理解のもとで活用するようにしましょう。