【vol.53】相続Q&A~遺言書と異なる内容の遺産分割と贈与税~
質問
被相続人甲は、全遺産を長男に与える旨の遺言書を残していましたが、長男夫婦には子どもがいない等の理由から、相続人全員の合意のもと、遺言書と異なる内容の遺産分割を行いました。
このとき、長男から他の相続人へ権利の移転があったものとして、贈与税の課税関係は生じないでしょうか。
回答
本事案のように、子どものいない長男が遺産を相続した場合には、将来長男が亡くなったときに、遺産の一部が長男の配偶者に渡り、ゆくゆくは長男の配偶者の家系に渡ってしまう可能性があります。
このような財産移転を意図しない場合には、長男の配偶者に遺言を作成してもらったり、甲の生前に家族信託を設定するなど方法はいくつかあります。
遺産分割の場面においても、相続人全員の合意によって遺言書と異なる内容の遺産分割を行い、遺産の取得者を改めて決定することで、家族にとっての望ましい形で相続を終えることはできます。
これは、包括受遺者である長男が包括遺贈を事実上放棄(相続人としての権利・義務を放棄したわけではありません)し、共同相続人によって本来の遺産分割が行われることになります。
したがって、長男から他の相続人に権利の移転があったとは見られず、贈与税の課税も生じません。
(国税庁「質疑応答事例」を一部参照)
教訓
本来、故人の想いは最大限に尊重されるべきものです。
手続上は可能でも、故人の考えに基づいて遺産を相続し、それが家族にとっても望ましいものとなっているに越したことはありません。
ただ想いを残すのではなく、その内容が家族にとって最善のものとなっているかどうか、一部の者に不利益を生じていないかなど、専門家のチェックやアドバイスを受けることも、時として必要になります。