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【vol.64】『円満相続のために大切な3つのこと』

相続診断士の皆様、初めまして。
神戸市中央区にて開業しております、弁護士の須山幸一郎と申します。
平成31年1月より、相続診断協会のパートナー事務所として皆さまのお手伝いさせていただくこととなりました。
どうぞよろしくお願いいたします。
相続分野は、これまで家庭裁判所の非常勤裁判官(家事調停官 任期満了)及び家事調停委員(現職)として携わり、また弁護士としても重点を置く分野であることから、数多くの案件に関与して参りました。

さて、皆様も常々お感じのとおり、相続にまつわる人間関係は様々であり、残念ながら、「争族」を防ぐ万能の方策は有りません。
しかしながら、当職は、これまでの経験から、どのような事案でも

①被相続人の生前対策(相続財産の洗出し、遺言書作成、家族信託、納税対策等)、
②被相続人が自分の「思い」を明確にしておくこと、
③相続人(推定相続人)が隠しごとをしないこと、

この3つが実現できていれば、多くの「争族」を防ぐことが出来るのではないかと考えております。
いつもこれらを満たすことは難しいのかもしれませんが、相続のお仕事をさせて頂く際には、以上の3つに出来る限り配慮した業務を行うように心がけております。

【事例】
あるご家族の事例をご紹介いたします。

1、関係するご家族は、介護施設に入居中の祖母(被相続人)、長男、次男、三男(死亡)の子(=孫)の4名でした。

祖母と長男・次男とは関係は悪くないものの長年疎遠となっており、日常の介護及び生活交流はまだお若い孫夫婦が行っていました。
ある日、祖母に末期がんで余命数か月と診断され、施設から病院へ入院することになりました。
入院直後、孫を通じて祖母が遺言作成を希望していると当職宛にご連絡があり、当職が病院に出張しながら作成する遺言の内容を検討することになりました。

2、祖母は会社役員の経歴があり、自宅マンション(8000万円)と約1億円の現預金がありました。

祖母のご希望は、自己の財産を、長男・次男には取得させず長年お世話をしてくれた孫夫婦に6割程度の預金とマンションを取得させ、役員をしてきた会社に2割程度の預金を取得させるとともに、過去にたびたび救急車の出動でお世話になった自治体(市)に救急車を寄贈したい(2割~3割程度の預金でまかなう)、遺言執行者は当職に、というものでした。

自治体に救急車を寄贈する手続きが如何に大変かはさておき、祖母のご希望は、長男・次男の遺留分を侵害していますので、後に紛争が生じる可能性があります。
当然、祖母にそのことを伝えましたが、祖母の意向は、内容の変更はしないというものでした。
専門職が作成関与している遺言書にも、遺留分侵害となることが明らかであっても、本人の希望通り作成してしまっているものをよく見かけます。実際、そうせざるを得ないケースも多いのかもしれません。

しかし、当職は、聴き取った関係者のこれまでの人間関係を踏まえ、今回は、祖母の了解のもと、祖母が希望する遺言内容につき、祖母と孫夫婦を交えて話し合うことにしました。
孫夫婦は、祖母に対し、自身の取得分は法定相続分だけでよいから、叔父ら(長男・次男)にも分けてあげて欲しいとの意向を示しました。
ところが、それでも祖母の意向は変わらず、祖母の意向通り作成するか悩みました。
しかし、被相続人の近親者が相続財産の大半を相続するという、将来最も紛争になりがちなケースであり、孫のお気持ちを踏まえ、祖母に対し、近日中にお見舞いに来られる予定の長男・次男に、直接、祖母から、ご自分の「思い」と孫がどのように言っているのかを伝えて頂くことをお勧めしてみました。

数日後、見舞いに訪れた長男及び次男は、祖母から直接話を聞いた結果、祖母の意向を尊重するとの意思を表明されました。
以上の結果を踏まえ、遺留分を侵害する内容ではありましたが、公証人出張により、当職を遺言執行者とする祖母の希望通りの遺言公正証書を作成することとなりました。
時間的な関係もあり、長男・次男には、遺留分放棄の手続きまでは要求しないことにしました。

3 祖母がお亡くなりになられたのは、遺言書作成の数週間後でしたが、無事遺言どおりの遺言執行を完了することが出来ました。

長男及び次男からは、遺留分減殺請求がされないまま、無事、請求期間が経過しました。
現在では、祖母が希望したナンバーを付けた救急車が市内で活躍しています。
なお、祖母の生前の意向により、相続人が感謝状を受けたり、マスコミへの発表を行うことなどは希望しないこととしました。

4 この事例では、遺言書を作成していなければ、祖母の思いが実現できなかったことは確実です。

また、祖母が生前、自分の思いを包み隠さず関係人に伝えていたこと孫も長男・次男に祖母の意向を事前に伝えることに同意し、隠しごとをしなかったことが、結果的にすべての関係者に納得をもたらしたのではないかと思われます。
(上記事例は、プライバシーと守秘義務の観点から、実際の事案を改変しています)

【まとめ】

遺言や家族信託は、被相続人の思いを伝える手段ではありますが、限界があり、必ず「争族」を回避出来るとは限りません。
専門職としては、家族・親族の過去の人間関係に深く立ち入ることは出来ず、関与に限界があることは否めません。
しかし、相談者を取り巻く人間関係を踏まえ、冒頭に挙げた3つに配慮しながら、どの局面でも誠実に、相談者だけではなく、ご家族全体に目配りしたご提案を粘り強く模索することが、結局一つでも多く円満相続を実現するために重要なのではないかと考えています。

 

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