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【vol.50】~弁護士の役割は、争いごとに関与するだけではない~相続人が1人だけでも遺言書を作成する必要がある事例

相続診断士の皆様、こんにちは。

京都市役所前法律事務所にて弁護士として執務させていただいております、佐々木達憲と申します。

京都相続診断士会の発起人の一人でもあり、また、京都にて「一般社団法人 京都市役所前相続支援協会」を設立して、他士業の方々と連携しながら相続・事業承継のワンストップサービスを提供差し上げられるよう、活動しております。

最近は個人の相続だけでなく、法人の事業承継につきましても注力しております。

 

事例

相続・事業承継対策の一環として、私が遺言書作成に携わった案件をご紹介させていただきます。

クライアントは、とある法人の代表者の方でした。

元々は、海外での居住歴が長く、とある国にて年金受給権を有していたところ、その国では日本で生活するにあたりその後も年金受給資格を証明するためにはご本人だけではなく一定の資格を有した人間の署名による生存証明が、要件として求められております。

その一定の資格には「弁護士」も含まれていることから、私がその方の生存証明のため必要書類に署名させていただくようになったことが、ご縁の始まりです。
ある程度関係性が継続するようになってから、私はその方から相続・事業承継のご相談を打ち明けていただきました。

 

その方にはお一人だけお子様がおられるのですが、諸事情により日本の戸籍には入っておらず、自分に何かあった場合に相続人としての証明が難しいとのことでした。
血縁関係上は間違いなく自分の子供であるのに、将来的に会社の株式等を相続させることができないかもしれない、とのお悩みをお持ちでした。

改めて養子縁組をすることも考えられましたが、それも抵抗があるとのことです(そもそも生物学的に実子であるのに、養子縁組をするということに抵抗があります)。

このままでは、せっかく人生をかけて形成してきた会社の資産を、誰にも引き継げなくなってしまいます

 

そこで、遺言書を作成することとなりました。
遺言書があれば、戸籍による証明ができなくても、資産を特定の人物に引き継がせることができます。

クライアントの保有資産をヒアリングのうえ遺言書を作成し、貴重な資産を愛する実子に確実に引き継がせることができる状態を作ることができました。
クライアントにはそれまでの懸念が払拭されるという安心感を抱いていただくことができ、とても喜んでいただけました。

弁護士は争いごとが起こってから関与する立場であるという、ある意味笑顔相続に対立する資格であると思われがちですが、争いごとがなくても笑顔相続実現のためにお役立ちできることが沢山有ります。
ましてや、相続する人間が1人しか存在しないというケースでも遺言書を作成する必要があったという、私にとっても非常に印象に残る事案でした。

 

 

相続診断士としての心構え~診断士としての日常用語は世の中一般では外国語~

最後に、私が弁護士として日頃最も心がけていることを述べさせていただきます。
これは、相続診断士としても同じく最も心がける必要があると思っていることです。

 

弁護士として相続実務に接していると、相続の専門家である他の弁護士が依頼者や相談者等のステークホルダーに、当たり前の様に法律専門用語を用いて話しかけている場面をよく目にします。

そして同様に、相続診断士の方が相談者の方へ、あるいはセミナーやコラム等で同じように、こうした用語を使っておられる姿も散見されます。

 

しかし、「法定相続人」あるいは「遺留分」といった用語は、世の中一般の人々にとってどれだけ日常的な単語でしょうか。
少なくとも私は、法律の勉強を始めるまでこういった言葉の意味を全く知りませんでした。

また現に、裁判や調停等で裁判官や調停委員の発言に対して「寄与分って何ですか?」「遺留分って何ですか?」と質問する方を何人も見てきております。
日常の仕事等でこれらの用語を使うことの無い方々にとっては、それが普通の感覚であると思います。

 

相続診断士の資格を持った人達で集まる機会の多い方にとっては日常用語に化してしまって感覚が麻痺してしまうこともあるでしょうし、
または試験に合格し資格を取得したことで、ついついこうした専門用語を使いたくなる方もおられるかもしれません(友人から相続の相談を受けた際に「あなたには遺留分があるよ」と発言できる自分がかっこよく感じられるかもしれません)。

しかし、それらはいずれも相談者・クライアントの目線に立っていないことであると、私は常々感じております。

私は業務において、「法定相続人」という言葉を使う際には、まず「法定相続人」という単語が存在すること及びその意味をご説明してから、その単語を使うようにしております。

自分達にとって当たり前の単語も、慣れていない方にとっては外国語の様なものだということを、是非相続診断士の皆様にも心がけていただきたいと切に願います。

 

 

相続コラム最前線

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